Ito

薬学部を卒業後、大学病院で病院薬剤師として4年近く勤務。初年度は主に処方監査や調剤、抗がん剤の調製・服薬指導などの基本業務に従事し、2年目からは院内製剤業務を担当。並行して、精神科病棟における入院患者への服薬指導や医師・看護師への薬剤情報提供を行う。2019年1月、エムスリーに入社。

―伊藤さんは病院薬剤師からエムスリーに転身をされたそうですが、転職の背景や理由をお聞かせください。

そもそも最初に薬剤師として大学病院勤務を選んだのは、薬のプロフェッショナルを目指したためです。そのためにまず、難症例が多数集まる臨床現場で、ハイレベルな知識や技術を身につけようと考えました。その学びの期間として当初から3~4年程度を想定しており、勤務しながら次のステップを模索していたところ、入職して3年目に院内製剤の品質管理の一貫で、製剤中の有効成分の定量試験の開発業務に従事。その結果を論文にまとめる機会があり、自分の手で何かを創り出すという仕事に挑戦したい気持ちが強くなりました。そこで、それまで身に付けてきた医療知識や現場感覚に加え、学生時代に培った論文の読解および執筆スキルを掛け合わせて自分にできることを考えて、メディカルライターを志したのです。

―メディカルライターとして働く場に、エムスリーを選んだのはなぜだったのでしょうか。

実はもう1社広告代理店も検討しましたが、エムスリーは面接でオフィスを訪れたときに、オフィスの活気や働く人の熱量が印象的だったのです。また、意思決定において合理性を重んじる社風だと聞き、仕事の本質的な部分に集中できる環境だと思えたのが決め手でした。そうして、2019年1月にメディカルライターとして入社しました。

―薬剤師からライターと大きくフィールドが変わられましたが、業務にはどのように慣れていったのですか?

当初は、構成要素の決まっているコンテンツの内容を原稿案として書き起こす業務や、執筆に必要な文献の検索などから始めました。実はメディカルライターの業務では、ライティングスキルは一般のライターほどには求められません。「てにをは」を正しく用い、主語・述語がつながりをもって論理的な文章を書くという、ごく基本的なライティングスキルさえあれば、コンテンツ作成の経験を積むことで自然とメディカルライターとして必要なレベルに磨かれていきます。それよりも大事なのは、コンテンツの内容や意図を理解して、それに見合う文章を作ることです。

私自身、ライティング業務は未経験なのに加えて、医療コンテンツに関する理解が足りないと感じたため、過去のコンテンツを視聴したり、他のメディカルライターが執筆した原稿を読ませていただきながら、どのような文章が求められるのかを体に染み込ませていけるよう努めました。

―メディカルライターには、薬学系や医学系の知識がやはり必要でしょうか?

現在エムスリーにいる8名のメディカルライターのうち、2人は一般の出版社出身など、薬学系・医学系のバックグラウンドは持たない方もいますので、必須要件とまではいえないと思います。しかし、私たちが手がけるのは医師向けのコンテンツであり、それに見合った専門性は求められますので、ある程度、薬学系・医学系の知識があるほうが活躍しやすいかもしれません。

―改めて、メディカルライターに必要な素養は何でしょうか。

まず知的好奇心があること。次に、やはり書くことが得意で、上手に物事を伝えられること。そして、正確さに向き合えることです。医療コンテンツにおいては、正しい情報が伝わることが最優先となります。ですから、自分が創ろうとしている文章が正しい情報に基づいているか。その伝え方が何らかの意図で捻じ曲げられたりしていないか、という点を自身で担保していかねばなりません。確認のために文献の原著に当たることもよくあり、かなり地道な確認作業にもなります。それを面倒と思わず、真摯に向き合えることが素養として必須です。

―この仕事の難しさは、どういう点にありますか?

正確さとともに、専門的なコンテンツを作成するために高度な医療知識が求められ、医学の進歩にあわせて常に新しい情報にキャッチアップしていかねばならない点でしょう。そのために、他の論文への引用率の高いジャーナルを中心に、最新の論文チェックは欠かせません。そのほか、ライターごとに興味関心ある分野を日頃から注力して学んでいるので、その分野に造詣の深いライターから最新の情報を共有してもらったりもします。私自身は、前職で担当していた精神科領域の関連から、睡眠導入剤などを得意なテーマとしています。ちなみにライターごとの得意分野は自然発生的なもので、メディカルライターを目指す上で特定分野の専門性が特に求められるわけではありません。エムスリーでは扱う薬剤の幅が広いので、論文読解技術などの汎用性あるスキルの方が、より応用が利き、役立つと思います。

もう一つ、難しいのがプロモーションコードや薬事法などのレギュレーションを理解して、コンテンツに落とし込む点です。医薬品はとりわけレギュレーションが厳しい世界なので、その中でどうすればクライアントの求めるプロモーションの目的を達成できるか、考え抜かねばなりません。しかし、レギュレーションは内容が細かく、多岐に渡っていて、その解釈や判断がクライアントによっても分かれる場合すらあります。そのために、プロモーションコードなどを隅々まで読み込むのはもちろん、チェックリストを作成してチェック漏れが出ないような仕組みを自身で工夫して作りました。また、解釈が分かれて判断の難しいものについては、経験豊富なメディカルライターに意見を聞くなどして、知見を蓄えてきました。いずれにしても、こうした難しさがこの仕事の面白さでもあり、それを楽しめる方であれば、メディカルライターにフィットするでしょう。

―一方で、面白さややりがいはどういった点にありますか?

コンテンツというソフトを自身の手で創り上げていくのは、ものづくりにも似た感覚が味わえます。薬剤師時代にはなかったものですね。実際に、自分が手がけたコンテンツに対してクライアントや視聴された医師から反響がもらえるのも、励みになります。

また、業務におけるコミュニケーションは主にコンテンツプロデューサーととるのですが、それ以外に、コンテンツプロデュースのためにメディカルライターが医師に取材する機会というのがあります。特定の医療分野におけるトップレベルの先生方に直接取材することになりますので、あらかじめ情報を自身で把握し、理解していなければなりません。実際には、そうしたドクターは講演経験も多く、取材意図を汲んで分かりやすくお話いただけますので不安なく実施できました。また、そうした著名なドクターに対する取材で、クライアントサイドから数名、エムスリー側もコンテンツプロデューサーが同席していますが、その場を進めていくのはメディカルライターの役割ですので、程よい緊張が感じられ、仕事冥利に尽きる経験ができます。

―今後どのように、メディカルライターとしてのキャリアを築いていきたいですか?

入社して約2年、原稿執筆に注力してきましたが、これからは企画立案やプロモーション戦略提案にも貢献の度合いを高めていきたいですね。そのためには、医薬品を取り巻く環境や医療現場でのニーズを理解し、そこに応えるようなプロモーション戦略が考えられることが大事でしょう。

前職が薬剤師だったため、医薬品のプロモーション戦略というところには疎く、意識して力をつけねばと思っています。そもそも薬剤師の仕事では、目の前の患者さんのことを一番に考えてきましたので、メディカルライターとして、そうしたビジネス的な側面は改めて意識して身につけるべきでしょう。私自身、転身を経て今は、プロモーション活動というのはその医薬品の持つポテンシャルを引き出す仕事だと思い、やりがいを実感しています。薬剤師として臨床現場に今おられる方にはイメージしにくいかもしれませんが、ビジネス的なことを色眼鏡で見ずに、薬剤の可能性を広げるものだと知ってもらいたいです。

また、エムスリーは優秀な方が多く、新しいことをどんどん進めていける場です。そこでチャレンジして、新しい治療法など、医療の可能性を広げていけるようなコンテンツ作りに、ぜひ一緒に取り組んでもらえればと思います。